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KITAHATA URBAN DESIGN CORPORATION

篠津川橋梁

篠津川橋梁(1)東坑門より西側を望む
滋賀県大津市/東海道本線
平成26年5月3日撮影



大津市内の”ねじりまんぽU”

■5月3日、旧東川橋梁から国道1号線を自転車で南下。

次に向かったのは

      篠津川橋梁

降りるところが直ぐには見つからず、

うろうろしてから階段と足掛金物を発見しました。


篠津川橋梁は兵田川橋梁の北約170mの位置にあります。

最初の驚きは、ねじりまんぽが2本に分かれていたことです。

図2では、Aが東側のねじりまんぽ(1)、

Bが真ん中がコンクリートボックス、

Cが西端のねじりまんぽ(2)です。


ねじりまんぽ(1)−東側

■ねじりまんぽ(1)は綺麗な積み方のねじりまんぽで、

明治22年(1889)開業時のものと考えられます。

ボックスとの接合部(西)から概ね3m地点に漏水跡があり、

その後の複線化で作られた部分とのジョイントと思われます。

側壁は石積み3段(最下段は基礎か?)です。


■実測の結果は次の通りです。

   全  長 L≒18.6(南)〜18.7(北)m、

   正径間 W=1.85m(6.07ft)

   斜径間  a=2.15m

   斜架角 θ=65°(図2より推定)

   起拱角 β=38°(実測値)

正径間 Wは実測で1.85mでしたが、

測定誤差や他の煉瓦橋梁のデータから、

おそらく6フィート(1.83m)で設計されたと考えられます。



東側(下流)坑門・アーチ4段 小口が平行四辺形や三角の煉瓦

坑門/石積(乱積)

立上り角β(起拱角)≒左38°前後
ねじりまんぽ(1)の西側(上流)坑門 西端より3m地点
漏水有り/”継ぎ目”と断定


図1−断面概要図

図2−平面概要図

図3−平面測定図

図4−β実測値と理論値の比較
篠津川橋梁(1)
(クリックで拡大図)
        

■斜架角は坑門角と同等と考えた場合 

    θ=59°(W=1.85m、a=2.15mより)
    θ=58°(W=1.83m(6ft)、a=2.15mより)
    θ=57°(文献2)データ/W=1.80m、a=2.15mより)

しかし、現地の面的測定結果を航測図に落とし

斜架角θを測定すると、

   斜架角 θ=65°(図2より)

となりました。

文献2)ではθ=57°としており、

   同文献の坑門角、

   図2のまんぽ出入り口を直線で結んだ線分との角度

と同じです。


ここでは、まんぽ内の折れを考慮し

図2の結果を尊重して 65°を採用しました。


■斜架角θ≒65°として、起拱角 βを求めると、

    起拱角 β=17°(tanβ=2/(π・tanθ)より)

となります。

坑門角を採用しθ≒60°としても

    起拱角 β=20°

です。


しかし、実測起拱角 βはもっと大きく、

    起拱角 β=38°(実測値)

でした。

起拱角が理論値より20度近くも大きいのです。

No13兵田川橋梁と同様で、

   ねじりすぎる”ねじりまんぼ”

と云うことになります。

(参考/β=38°から逆算すると、θ=39°)

ねじりまんぽ(2)−西側


ねじりまんぽB(西)の西坑門/側壁、坑門はコンクリート


■西側のねじりまんぽ(2)は、

積み方からして見るからに煩雑で、

漏水等で非常に汚れています。

また側壁、坑門共にコンクリート製です。

実測の結果は次の通りです。

   全  長 L=7.6(南)〜7.0(北)m

   正径間 W=1.73m(5.68ft)

   斜径間  a=1.88m

   斜架角 θ≒55°(推定)

   起拱角 β≒27°(実測値/バラツキ多い)

西側からボックス、まんぽ(1)を望む

アーチ部の積み方は雑である
 起拱角 β≒27°(実測値)

まんぽ(2)東側坑門
坑門西南角内側の状況 東南坑門付近の状況


図5−β実測値と理論値の比較
篠津川橋梁(2)
(クリックで拡大図)

■斜架角θ=55°からβ(起拱角)の理論値を求めると

   起拱角 β=24°(tanβ=2/(π・tanθ)より)

ほぼ、実測起拱角 β=27°に近い数値です。


■1889年(明治22年)に

   国府津駅 - 浜松駅間

   関ヶ原駅 - 米原駅 - 大津駅間

が開業し、鉄道開業から17年で新橋駅から神戸駅までが結ばれました。

この時期に作られたねじりまんぽが上り線外側(東)のまんぽ(1)。

まんぽ(1)の西端から概ね3m地点に接続跡があり、

その後複線化で施工された部分とのジョイントと思われます。


さらにその後、ねじりまんぽ(2)が施工され、

最後にボックスカルバートが施工されたと考えられます。

ただ、ねじりまんぽ(2)は鉄道用だったのか

道路用だったのかは定かでありません。

文献5)にも同様の記述があります。

データシート

■結論−篠津川橋梁(1)

1. 文献2)ではθ(斜架角)は57°と記されいますが、

  図2の結果を尊重して 65°を採用しました。

2.θ(斜架角)を65°から求めたβ(起拱角)の

  理論値(図−3 青丸)は17°で

  実測値(図−3 赤丸)38°より20°も小さくなります。

  逆の言い方をすると

     ねじら無くて良いくらい、ねじっている

  と言えます。

3.複線化工事による接続痕跡が確認出来たことから、

  ねじりまんぽの内、東側約18mは開業の明治22年(1889)、

  西側約3mはその後追加施工されたと推定されます。

  追加施工の時期は未調査ですが、

     市三宅田川橋梁上りと同じ明治35年(1902)

     旧逢坂山隧道2本目と同じ明治31年(1898)

  が考えられます。


■結論−篠津川橋梁(2)

1. θ(斜架角)は図2の結果を尊重して 55°を採用しました。

2.θ(斜架角)を55°から求めたβ(起拱角)の

  理論値(図−3 青丸)は24°で

  実測値(図−3 赤丸)27°とほぼおなじです。


3.篠津川橋梁(1)は開業の明治22年(1889)開業。

  西側約3mはその後の複線化で追加施工されたと推定されます。

  さらにその後、篠津川橋梁(2)、ボックスカルバート

  の順に施工されたと考えられます。


以上の調査データをまとめ、データシートとしてPDFにしました。

  ⇒⇒No14 篠津川橋梁 調査データ(PDF)


     

■なお上記「調査ーデータ」を作成するにあたっては、下記の考えに従いました。

●ねじりまんぽの番号
 /「鉄道と煉瓦」表4-1”一覧表”(P117)における番号を採用。

●方向
 /東西南北の表示は主たる方向とした。

●経度緯度
 / Google Earth より求めた。

●煉瓦形状
 /手作り煉瓦であるので寸法にバラツキがある。故に代表値。

●積み方/イギリス積み、オランダ積みの区分
 /コーナーの仕上げ形状により、イギリス積みとオランダ積みが区分されるので、
 /文献「鉄道と煉瓦」にならい、一般的に”イギリス積み”と表記。
 /ただし、コーナー部が”オランダ積み”と確認できたもののみ”オランダ積み”と表記。

●θβの左右区分
 /「鉄道と煉瓦」にならい、側壁に向かってアーチの煉瓦が右上がりの場合「右」 、左上がりの場合「左」 と表記。

●中心キロ程
 /現行距離程による。(開業時とは異なる)


位置図



■なお、ねじりまんぽのページは”たけちゃん”と協力して作っていますので、

   写真、図表、データシート(PDF)添付資料

等々、たけちゃん作成の資料を用いています。

 また、この日以降も”たけちゃん”が毎週のように調査を続けていますので、

その結果を踏まえて書いています。






INFORMATION

1.「ねじりまんぽ」とは
2.「ねじりまんぽ」を見に行こう
3.「ねじりまんぽ」の構造
4.「ねじりまんぽ」建設再現
5.番外偏
6.マスコミで紹介されました
7.「ねじりまんぽ」一覧表
8.参考文献/参考外部リンク


参考文献

1) 斜架拱(しゃかきょう)
/伊藤鏗太郎(イトウ コウタロウ)編訳/1899年(明治32年)

 我が国で初めて斜架拱”ねじりまんぽ”を単独で取り上げた書物と思われます。
 国立国会図書館・蔵書検索システム(外部リンク)で検索すると、原著のPDFデータを閲覧ダウンロードすることができます。


2) 鉄道と煉瓦−その歴史とデザイン

/著者;小野田 滋(おのだしげる)/鹿島出版会/2004発行

 煉瓦の歴史や組積方法鉄道構造物としてのデザイン等について記されています。
 全国45都道府県を調査した”足で書かれた論文”で、現在も購入可能です。


3) 阪神間 ・京阪間鉄道における煉瓦 ・石積み構造物とその特徴

/著者;小野田 滋/土木史研究 第20号/2000.5

 京阪神間の煉瓦 ・石積み構造物の特徴を捉え、現地調査結果をまとめています。(PDF/外部リンク

4) 組積造による斜めアーチ構造物の分布とその技法に関する研究
/著者;小野田 滋、河村清治、須貝清行、神野嘉希/土木史研究 第16号/1996.6

 「ねじりまんぽ」の分布や技法についてまとめた論文です。(PDF/外部リンク

5) 関西地方の鉄道における「斜架拱」の分布とその技法に関する研究」

/JR西日本 河村清治、小野田滋、木村哲夫、菊池保孝/土木史研究 第10号/1990.6

 JR西日本管内の「ねじりまんぽ」を本格的に調査し、まとめています。(PDF/外部リンク


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